2008年10月1日水曜日

東ティモール訪問(バイオガス交流)報告

TNCC 自然エネルギー担当 仁井明


 去る2008年7月4日から18日まで、バイオガス交流その他を目的に、東ティモールを訪問しました。 ここでは、バイオガス交流の一部について報告します。 訪問先は、ディリ(首都)、東部のロスパロス、南の海、ティモール海に面したベタノ村です。
〔なお、下記地図は、『季刊 東ティモール』の許可を得て、転載しています。〕

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1. NGO VECOM との交流 (ディリ、ロスパロス)
 このNGOは、人々が食事の煮炊きを熱帯雨林の伐採によって賄っている現状を憂える女性国会議員さんが、私費を投じてバイオガス設備を造り、人々への教育を通して、バイオガス普及・促進を図っている団体。 本部は首都ディリにあり、意見交換するとともに、設置中のベトナム式バイオガス設備を見学させていただいた。 また、支部が東部のロスパロスにあり、ここでは、ドラム缶を使った移動式バイオガス設備が運転中であった。
 なお、このNGO訪問は、東ティモールにおいて漁業の発展を目指し、漁船造りから指導されている日本人の方からの紹介で実現した。

(1) NGO VECOM本部訪問 ・・・ 首都 ディリ市内

ベトナム式バイオガス設備

・セメントブロック槽のサイズ : 1m幅×5m幅×1m深さ、発酵槽 : 5㎥
・この中に、フィルム式発酵槽が入る。
・東ティモールでは、雨季の風雨が強く、また棘のある植物も生えるとのことで、フィルムを保護するために、セメントブロック槽を作っているとのことで、現地の気候風土をよく考えて作られており、感心した。

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原料(牛糞)投入口


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液肥取出側

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発酵槽(事前成型されている)

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 ガスバーナもバイオガス専用のものが販売されている。 完成の暁には、設備の傍にデモンストレーション用の台所を作り、人々を対象に普及促進を図るとのこと。
 人口約100万人の8割の人は、電気の無い生活をしている。 炊事用の燃料としては、熱帯林を切って薪にしているのが現状である東ティモールにおいて、人々がバイオガスにかける期待と意欲は非常に大きい。

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 訪問した日、たまたま、当該NGOによる、バイオガス研修の修了証授与式が行われおり、出席された数名の関係閣僚より修了証の授与が行われた。政府を挙げての意気込みが感じられた。


(2) NGO VECOMのロスパロス支部訪問

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 ドラム缶式(運搬可)バイオガス設備
ドラム缶(200L)を直列に2つ溶接で繋いだもの。容積は400L。左側が原料(水牛糞)投入口。右側から、液肥が出てくる。中央上部にバイオガス取り出し口がある。 タイヤのゴムチューブをバイオガス貯蔵タンクとして利用している。

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 左側にある原料(水牛糞)投入口。
原料投入は、毎日、20Lバケツ2杯分の牛糞、およびそれと同量の水。

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 バイオガス取り出し口

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 バイオガス圧力計(水柱マノメータ)。
 水ではなく、水銀を使っていた!
 驚いて理由を聞くと、水だと圧力が高く(通常でも、約160mmH2O)なりすぎ、水が噴出してしまうとのこと。これは、現地が熱帯である上、ドラム缶製なので太陽熱の吸収が良く、さらに、埋設型と異なり地上にあるため、放熱が少ないためであろう。
 そのため、バイオガスの発生が非常に良好で、3~4hr/(日・1バーナー)使用可能とのこと。実際に、バーナーに火を点けてもらったが、日本の都市ガスと変わらないくらいに燃えていた。
 中国式標準埋設型バイオガス設備(6㎥)の15分の1の設備で、これだけのバイオガスが得られるのは驚きである。

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 本設備を設計制作したスタッフとテトゥン語の通訳していただいたシスター。
シスターの隣が、リーダーである農業専門学校の先生、ならびに小学校教師である2名のスタッフ。この設備の準備、設計、製作に4年を費やしたとのこと。 森林を守り、人々が自立して生活できるように、地域の先頭に立っておられる。その情熱に感動した。


〔有毒ガス測定〕
リーダーが農業専門学校の教師であることもあり、非常によく勉強されていた。 有毒ガス発生の危険性、PH測定の必要性についても認識されていた。 ただ、残念ながらそれらの測定器具が無いとのこと。 そこで、日本から持ち込んだ、簡易ガス測定器を用いて代表的な有毒ガスを測定した。

その結果、
◆硫化水素(H2S)は、全く検出されなかった。これは、水牛の餌となる牧草が、イオウ分(S)を含むアミノ酸(シスチン、メチオニン)を含んでいないためであろう。
◆フォスフィン(PH3)も全く検出されなかった。このガスは毒性が強く、その意味では安全であるが、リン(P)は植物の3大栄養素(N、P、K)の一つであり、逆に言えば土地がリン(P)不足の状態にあることを示唆する。
◆CO2は19%であった。一般に、CO2は25%~40%程度とされており、かなり少ないようだ。 熱帯地方に特有な組成になっているのだろうか?

〔感想〕
① スタッフの知識は豊富。村々まで電気が供給されている日本では、有機農業推進、地球温暖化対策、持続可能社会の実現、といった意識を持った人々がバイオガスを試みているのが現状である。一方、東ティモールでは、差し迫った切実な強い目的意識を持って開発に取り組んでいる。 この点、むしろ日本が東ティモールから学ぶことも多い。
② バイオガス発生量は、熱帯であるだけに日本よりかなり多そうだ。
③ 各種測定器具があれば、現地の意識を持った人々で十分、設計、運転、管理できる。
④ なお、一般の人々の意識はまだ低い。人々の意識・意欲の向上と自立心の育成が最も重要と思われる。
この点、バイオガスや有機農業に関わる研究機関、教育機関、後進国型バイオガス関連資材の自国製造産業(現在は、殆どの資材は輸入に頼っている模様)等の育成と整備を図ってゆけば、都市部若年層の失業率が40%以上ともいわれる東ティモールの人々の自立心、意欲向上とともに、生活レベルの向上に大いに役立っていくのではないだろうか。

2.MCE-A(Movimento of Cooperativo Economico-Agricola)
東ティモールにある、政府関連の団体で、1999年に設立。 当初は、8つの稲作、コーヒー農家の協同組合のグループとして発足。 その後、主として地方の村落地方を対象として、バイオガスの普及による炊事用ガス利用、発電による電気供給を目指して、発展途上国型としてはかなり大規模な設備の普及を図っているようだ。 財源は東ティモール政府や諸外国からの支援を受けている模様。 ニュージーランドのNGO等も技術支援、教育の面で関わっている。現在では、50数箇所の協同組合が参加しているようだ。


3.ベタノ村におけるバイオガス設置ミーティング

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 ベタノ村へは、途中、2400m級のカブラキ山(写真)を右手に見ながら、1800mの峠を越えてゆく。 山中に入ると舗装されておらず、下を見れば断崖絶壁の道が続く。

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ベタノ村に着くと、森を抜け

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川を渡り

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海沿いの田畑に出た

① (ビデオ)ジョゼ(Jose)さんの田畑と作業小屋


 7月は乾季だが、湧き水に恵まれ、2期作、3期作が可能とのこと。

② メッセージ交換(於/作業小屋)

 昨年秋、Joseさんは、兵庫県のあーす農場でバイオガス研修と有機農業交流を行った。
 今回、Joseさんの作業小屋で、あーす農場の、れいさん、あいさん からのプレゼントを手渡し、メッセージ交換を行った。

れいさん、あいさん より(ビデオ)


ジョゼ(Jose)さん より (ビデオ)


③ TNCCと協働で、ベタノ村にバイオガス設備を設置することについて、集落の人々とミーティングを持った。 結論として、ベトナム式バイオガス設備を村の診療所横の空き地に設置することとなった。 この村も煮炊きは薪を使い、夜はローソクの生活。

バイオガス設置ミーティングの様子(ビデオ)


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ベタノ村の診療所

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バイオガス設置場所
(診療所横の空き地)
傍には、小川も流れており、立地条件としては最適。

④ ベタノ村の海と子供達
ベタノ村は、20万人の人々が殺害される原因となった、豊富な油田、ガス田があるティモール海に面している。

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その海は、紺碧、静謐、かつ平穏で、これまでの東ティモールの人々の長い苦難の歴史を思うと戸惑いを感じざるを得なかった。

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長い苦難の歴史を越えて、子供達の笑顔は素晴らしい。

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